男子マラソン日本記録保持者・大迫傑選手が自身のツイッターで「そろそろ陸連を私物化するのはやめた方がいいと思う」「どういう選手が推薦出場に値するのかちゃんと明記して欲しいですね」と日本陸連を強烈に批判しました。
今回はこの件について、陸上競技を見る一人のファンとして考えてみます。
参加標準記録を突破していない大迫選手
これは、もともと5月19日に開催される日本選手権1万メートルに「本連盟強化委員会が特に推薦する本連盟登録競技者」での出場を申請したが、強化委員会側から「大迫くんが日本選手権でいい走りをするとそれに負けた選手のランキングが下がり、不平不満が出るから」という理由で断られたことが始まりです。
同選手権の参加標準記録の期間は2018年1月1日から今年5月6日まで。その間に参加標準記録Aの28分20秒0以内なら出場が可能だったが、大迫の期間内の持ちタイムは28分26秒41。参加標準記録Bの28分45秒0以内は切っているが、その場合は地域選手権を突破する必要がある。大迫は「本連盟強化委員会が特に推薦する本連盟登録競技者」以外に出場資格がありませんでした。
その様な中で、大迫選手は「なぜこの様な項目を入れたのか」と記し、理由を推察。「おそらく強化委員会所属チームのお気に入り選手を出場させたいから」「北京世界陸上の年の日本選手権10000m、特定の選手をペースメークするために外国人選手の出場を認めたが、それは公正を期していると言えるのか」と疑問を呈しました。
そして、その後の「そろそろ陸連を私物化するのはやめた方がいいと思う」「どういう選手が推薦出場に値するのかちゃんと明記して欲しいですね」に続きます。
これからは世界ランキングが重要
まず初めに、陸連側の「大迫くんが日本選手権でいい走りをするとそれに負けた選手のランキングが下がり、不平不満が出るから」についてです。
これまで、世界陸上などの大会に参加するためには、それぞれの大会の定める参加標準記録を突破することでした。
しかし、2020年東京オリンピックからは、大会に参加に参加するには、参加標準記録を突するか、世界陸連が発表する世界ランキング上位者になるかのどちらかが必要となりました。
参加標準記録を厳しくし、残った枠を世界ランキング上位者から割り当てるという方式に変更です。
オリンピック参加者を抑制するためとか、一発屋の参加をなくすためと言われていますが、はっきりとした理由は分かりません。
例えば、男子1万メートルで見てみます。
2019ドーハ世界陸上の参加標準記録・27分40.00
2020東京オリンピックの参加標準記録・27分28.00
現時点で、ドーハ世界陸上の参加標準記録を突破した日本人選手はいませんし、それよりも参加標準記録が厳しくなる東京オリンピックに参加するには、世界ランキング上位になることの方が可能性が高くなります。
現在の男子1万メートルの日本記録は村山紘太選手の27分29.69なので、東京オリンピックに記録で参加するには、日本新記録を出す必要があります。その位、記録での参加はハードルが高いのです。
それでは、次に現在の世界ランキングを見てみます。(2019年4月23日現在)
41位・大六野秀畝(実質23位)自己ベスト27分46.55
50位・設楽悠太(実質26位)自己ベスト27分41.97
53位・鎧坂哲哉(実質27位)自己ベスト27分29.74
62位・田村和希(実質30位)自己ベスト27分58.35
オリンピックには、各国3名迄の出場しか認められていません。41位の大六野選手迄の間にケニア選手が18名もいますので、その様なことから、大六野選手は、オリンピック参加のランキングとしては実質23位となります。
オリンピック出場枠は27名ですので、ランキングだけでいうと、現時点で日本人選手3名が出場出来るということになります。
実際は、参加標準記録突破選手もいると思うので、この様にはなりませんが、記録による参加が難しい日本人選手にとって、世界ランキングは重要な意味を持ちます。
なので、言う言わないは別として、自国開催のオリンピックに一人でも多く参加させたい陸連が「大迫くんが日本選手権でいい走りをするとそれに負けた選手のランキングが下がり、不平不満が出るから」という気持ちも分からなくもありません。
しかも、出場枠ぎりぎりのラインに日本人選手が集中しているので、尚更です。
もちろん日本一を決める日本選手権ですので、誰でも参加する資格はありますが、大迫選手の場合、マラソンでのオリンピック出場を狙っていますので、推薦ではなく、参加標準記録を突破しての参加であってほしかったと思っています。
推薦制度を考える
そして、もう一つの問題が推薦制度の明確化があります。
大迫選手は、推薦制度の基準の明確化を提議しています。
この制度は、過去の世界大会で優秀な成績を収めた選手が選考大会にケガなどの理由で参加できない時の救済処置の意味合いがあり、過去の例としては、室伏広治選手の例があるみたいです。
この推薦制度ですが、この様な優秀選手の救済処置と共に、もう一つの意味合いもあります。
それは興業の面からの意味合いです。
例えば、開催地の選手を参加させることで、その大会を盛り上げるということがあります。
参加枠9のうち、参加条件に満たしたものが7名しかいなかった場合、残りの2枠をどうするか。
純粋にスポーツとして捉えている人は、参加希望者の内、記録上位者から2名を選びます。
しかし、スポーツ+興行と考えている人は、地元選手や話題になっている選手を選びます。
その方が、話題にもなるし、観客も増え、収益も上がるからです。
その為には、基準が明確でない方が好ましいのです。
地元選手というならともかく、話題というのは、何を基準にしていいのか分かりません。
なので、敢えて基準を設けない方が都合が良いのです。
なので、この問題は陸上競技を純粋なスポーツと捉える人とスポーツ+興行と捉える人がいる限り、解決策はありません。
現状考えられる方法としては
①推薦制度を廃止する
過去の実績もなくし、一発勝負にする。タイムが全て。
②過去の世界大会優秀者のみ、推薦基準を設ける
例えば、過去のオリンピック、世界陸上でメダルを取った選手のみ推薦制度を活用できるという様に明確にする。
③収益等も考え、主催者側に一任する。
以上の様な方法が現状考えられますが、主催者側とすれば、興行面を考え、一任されるのが好都合なのかと思いますし、選手側からしたらタイムが全ての方が納得いくのではないかと思います。
特に残り1枠の選手が、過去の実績の救済制度により参加出来なかったら、相当悔しい思いをする筈です。
そういう意味では、選手のことを考えると、①推薦制度を廃止するがベストな感じがします。
競泳では既に一発勝負が当たり前みたいなので、陸上もいずれ一発勝負になるのかも知れませんね。
大迫選手は敢えて問題提議した?
そもそも、今回の日本選手権は、「参加資格を有する競技者が30人に満たなかった場合は、参加標準記録に達しなかった記録上位者から追加する場合がある」との条文があります。
現時点で、大迫選手は全体で26番目の記録なので、推薦枠を使わなくても参加出来た可能性が高かったのです。
しかし、推薦枠に申請したというのは、これまでの問題を踏まえて、敢えて提議したかったのかも知れません。
本当の所は分かりませんが、個人的な気持ちとしては、大迫選手には記録突破で参加してほしかったし、陸連にもきちんと大迫選手に説明してほしかったです。
9月の世界陸上や来年の東京オリンピックを控え、まだまだ陸連、選手が一丸とはなっていませんが、今回の問題提議を機会に、良い方向へ向かってほしいと思います。
陸上の一人のファンとしては、世界で活躍する日本人選手をただただ見たいだけなのですからね。